五銖銭 銖上星文

 五銖銭の鋳銭工員による手替わり銭貨のなかには、「星文」を多用した銭貨が散見できる。「星文」の付けられた位置、または「星文」の数、大きさ、銭面につけられた強弱、粗密さもさまざまであり、「五銖」の篆書文字がある面と何もない面(背という)ともに「星文」は付けられている場合がある。

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 上掲の画像は、「銖」の文字の上に「星文」がある。この星は、先端を尖らせた棒状の道具で丁寧に粘土鋳型(凹型)に付けたものである。しっかりと、星が刻まれていて鋳銭工員の戯興が伝わってくる。

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 上掲の銭貨画像は、「銖上星文・穿下半星文」である。「半星」は官製の鋳型の模様であるが、場合によっては官製の「半星」を更に強調すべく道具で印付けしていることもある。この銭貨も若干鋳銭工員の戯技が加わっている気もする。

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  次の銭貨は、「銖上」に「星文」があるが、星が上にゆきすぎて「輪」の際までいっている例である。精緻な銭面からすると「出来星」である可能性は低い感じがあり、これも戯技のひとつと見てよいと思う。

五銖銭 穿下星文

 五銖銭の手替わり銭貨には、「穿上星文」と対になる「穿下星文」もある。

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 上掲の画像は、「穿下星文」である。これも棒状の道具で鋳造の粘土型に星印をつけたものである。

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 上掲の画像は、「穿下半星」である。この銭貨は粘土型に元々「半星」の型がある。鋳銭工員の「穿下星文」は本質的に意味が違う。名もなき鋳銭工員の気概を堪能できればと思う。

五銖銭 穿上星文

 古代中国の後漢時代に流通していた貨幣である五銖銭には、当時の鋳銭工員による戯れの手替わり銭貨が存在する。

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 上掲の五銖銭の方孔上部の際にある小さな突起の点(星)は、通常の五銖銭にはないものであり、鋳銭工員が故意に棒状の道具で鋳造用の粘土鋳型につけたものと考えられる。この点は、日本古銭界では「星」と表現し、凸状であるので「陽文」と表現している。

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 この銭貨は、穿上の中間に「星文」がある。若干左側に星が寄っているのは、印付けが、短時間による、片手間なことを物語っているようである。

 戯れの手替わり銭貨が、何故存在しているのかは、人々の解釈により様々であるが、私は、後漢時代末期の献帝曹操の子、曹丕禅譲した頃の政情不安による民衆意識の緩みのなか、鋳銭工員も、それまで鋳銭の業界にあった縁起かつぎの為の銭貨への印付けや、また縁起かつぎ銭貨製造の拡大解釈、またはそれに便乗した自己顕示欲の発露によるもの、そして、印付けには、特に意味はないと考えている。今から約1800年前の鋳銭工員の息吹が感じられる手替わり銭貨を探究してゆこうと思っている。