五銖銭 背右廿白文

 今度の銭貨も白文である。「五銖銭 背右廿白文」である。「廿」の文字は、銭貨には「廾」とあるが、パソコンなどで表記できない場合もあるので、あえて「廿」とした。

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 上掲の画像を見てわかるように、「廾」というよりは「N」のような「Z」裏返しにしたような記号である。一説によると、「十」と「一」の組み合わせ、または「七」と「一」の組み合わせと見るむきもあるが、釈然としない。私は、ただ単に不能読でいいと思う。鋳銭工員に、特に識字率が高く、何事かを伝えようとしたと見るよりも、ただ戯技としたほうが腑に落ちる気がする。

五銖銭 白文類

 次の銭貨は、凹状の印付けの白文類である。「×」印や「十」印などを見てきたが今度は「 | 」印や「/」印のある銭貨を見てみたい。

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 上掲の画像は、「五銖銭 背穿下竪白文」である。この銭貨は磨輪であり、四角い穴の穿から輪の縁まで白文がある。余程強く、深く印が付けられているのが印象的である。

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 次の銭貨は、「五銖銭 穿下竪白文」である。雄型である鋳造粘土鋳型に、粘土が軟らかいうちに印つけがされたようで、縦線が二重になっている。

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 次の銭貨は、「五銖銭 背穿左下斜白文」である。手替わり銭貨を知らないと、ただの疵のように見える。そこのところも鋳銭工員の興趣かもしれない。

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 また次の銭貨は、「五銖銭 背穿左上斜二白文」である。先程の線一本の「斜白文」とはちがい、あきらかに戯技が認められる。ささやかではあるが、面白みは充分である。

五銖銭 五上白星文 五中上星文 背穿上横白文

 この銭貨は、表面と裏面に印付けがある。表面の「五」の文字の上に凹状の星文があり、篆書の鼓のような形の「五」の文字の中の、「五」の上の部分の空白の中、下部に小さな鋳溜りのような凸状の「星文」もある。「星文」と言うには、ささやか過ぎて気が引けるが「星文」であろうと思われる。

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 画像のピントがずれていて、判りにくいので、

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 銭貨を横から撮ってみた。「五」の文字の上に「白星文」が確認できると思う。そして、「五」の文字の中の上部、下方に小さな「星文」が確認できる。それから、銭貨の裏面であるが、

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 四角い穴の上に「横白文」が確認できる。一枚の銭貨のなかに、三か所の印付けが確認できるが、このような銭貨は珍しいわけではない。

五銖銭 十字白文

 五銖銭の凸状の印のある手替わり銭貨を見てきたが、今度は凹状の印の手替わり銭貨を見てゆこうと思う。

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   上掲の銭貨は、「五銖銭 穿下十字白文」である。四角い穴の下に「十字白文」が確認できる。白文は凹状の印(しるし)であり、鋳造は二度の粘土鋳型を経てから鋳銭されるので雄型のときに鉄筆等の尖った道具で印付けがされたものと思われる。尚、印(しるし)には乾いた感じの印と濡れた感じの印があり、乾いた感じの印は、粘土鋳型がよく乾燥したところに印付けをしたものであり、濡れた感じの印は、粘土鋳型が乾いていない、軟らかいうちに印つけをしたものと考えている。

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 次の銭貨は、「五銖銭 穿左上十字白文」である。印付けがひかえめであり、鋳銭工員の人柄がしのばれる。

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 それから、次の上掲の銭貨には、裏面(背)の四角い穴の下に「×」印のような十字には見えない「十字白文」がある。これも、きわめてささやかな凹状の印であり、確認出来ずらいので、

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 銭貨を斜めから撮った画像を載せる。凹状の印が薄くであるが、確認できる。本来、鋳銭工員の個人的な印つけは秘密裏におこなわれていたはずであり、このようにささやかなものであった。

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 次の銭貨は、前掲の銭貨同様に「十字」というよりは「×」印という感じのものである。前掲のものよりも些か「×」が大きい。

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 また、次ぎの銭貨は「五銖銭 背穿上十字白文(小)」である。

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 そして、次は「五銖銭 背穿上十字白文」の磨輪である。磨輪というのは、銭貨の縁(輪)が削られて無いものを言う。

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 次の銭貨も磨輪であり、背の左側に「士」の文字を倒したような「I十」の白文がある。私は「士」も「I十」も鋳銭工員は文字として印付けをしなかったと考えている。

五銖銭 二星文

 五銖銭の手替わり銭貨で、特に一つ星の「星文」を見てきたが、次は二つ星を見てみたい。

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 上掲の銭貨には「五」と「銖」の文字の上に「星文」が一つづつある。この銭貨の裏面(背)には十字白文がある。複数の「星文」のある銭貨には背にも印があることが多い。この銭貨は「銖上五上星文 背穿下十字白文」という名である。

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 次の銭貨には、四角い穴の下に「二星文」がある。星の形とふたつの星の大きさは同じようであるが、星のつけられた位置が型におさまっていない。それから、銭貨のなかには縁(輪)がある物とない物があるが。その有輪、無輪によって星の印象も変わってゆくようである。この銭貨は「背穿下二星文」という名である。

五銖銭 大星文

 五銖銭の「星文」のなかには、控え目な小さな星から、しっかりした星、そして、大きな星がある。鋳銭工員の戯技である「星文」は正規の印ではなく、あくまでも鋳銭工程で、不良部分、欠陥部分として許容される範囲内で秘密裏におこなわれていたが、段々印付け行為も大胆になっていった。

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 四角い穴の下に不整形な星がある。この「星文」は印付けが不完全で、凸状の部分と凹状の部分が星のなかにある。鋳造粘土鋳型に棒状の道具で印付けをしたと思われるが、印付け行為が秘密の裡に、すばやく行われていたであろうことが窺われる。

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 次の銭貨は、「穿上大星文」である。これだけ大胆に、しっかりと大きな星を刻み付ける鋳銭工員の気概やいかに、である。この星文は、銭貨の「五銖」の文字や銭貨の縁(輪)よりも深く鋳造粘土鋳型に刻み付けられたようで、星全体が磨滅して光って主張している。

五銖銭 背星文

 五銖銭の手替わり銭貨では、「五銖」の文字がある面に鋳銭工員の印付けを散見できるが、文字のない面にもしばしば印を確認できる。

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 上掲の画像では、四角い穴の右上に小さな「星文」が確認できる。精緻な鋳銭により、この星が偶然出来た「出来星」でないことが判る。

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 こちらの銭貨では、穴の右側に小さな「星文」が認められる。そして、

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 今度の銭貨では、穴の左側に、はっきりと「星文」が確認できる。それから、

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 次の銭貨では、右側に大きな「星文」がある。やや不整形な星であるが、普通サイズの星の大きさに比べて二倍の大きさがありそうである。印付けをする鋳銭工員によって「星」のバリエーションは無限になり、印付けをするときの心持ちが伝わってくるようである。