五銖銭 穿上星文

 古代中国の後漢時代に流通していた貨幣である五銖銭には、当時の鋳銭工員による戯れの手替わり銭貨が存在する。

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 上掲の五銖銭の方孔上部の際にある小さな突起の点(星)は、通常の五銖銭にはないものであり、鋳銭工員が故意に棒状の道具で鋳造用の粘土鋳型につけたものと考えられる。この点は、日本古銭界では「星」と表現し、凸状であるので「陽文」と表現している。

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 この銭貨は、穿上の中間に「星文」がある。若干左側に星が寄っているのは、印付けが、短時間による、片手間なことを物語っているようである。

 戯れの手替わり銭貨が、何故存在しているのかは、人々の解釈により様々であるが、私は、後漢時代末期の献帝曹操の子、曹丕禅譲した頃の政情不安による民衆意識の緩みのなか、鋳銭工員も、それまで鋳銭の業界にあった縁起かつぎの為の銭貨への印付けや、また縁起かつぎ銭貨製造の拡大解釈、またはそれに便乗した自己顕示欲の発露によるもの、そして、印付けには、特に意味はないと考えている。今から約1800年前の鋳銭工員の息吹が感じられる手替わり銭貨を探究してゆこうと思っている。